京都大学 Kyoto University

福井謙一記念研究センターFUKUI INSTITUTE FOR FUNDAMENTAL CHEMISTRY

諸熊奎治先生のご逝去を悼んで

当研究センターのFIFCリサーチフェロー諸熊奎治先生(分子科学研究所名誉教授)は、昨年(2017年)11月27日に、83年間の研究者人生を全うされました。

先生は、昭和9年(1934年)大阪府でお生まれになりました。昭和32年(1957年)京都大学工学部工業化学科をご卒業後、同37年(1962年)京都大学大学院工学研究科燃料化学専攻博士課程を単位修得退学され、同37年同大学工学部燃料化学科福井謙一先生の研究室に助手として採用、同38年に京都大学より工学博士の学位を授与されました。昭和39年(1964年)には,米国コロンビア大学客員助教授、博士研究員に採用され、米国ハーバード大学博士研究員、米国ロチェスター大学助教授、准教授を経て、昭和46年(1971年)から同大学教授を務められました。その後、同51年(1976年)、42歳の折に乞われて帰国,分子科学研究所教授に着任され、強力な研究グループを直ちに立ち上げられると共に、我が国初の分子科学専用機として大型電子計算機の導入に力を尽くされ,分子研計算センター長として、我国の理論化学・計算化学の発展に多大な功績を残されました。平成5年(1993年)より米国エモリー大学教授に転じられ、化学科教授、チェリー・エマーソン科学計算センター長としてご活躍の後、平成18年(2006年)には京都大学福井謙一記念研究センターにリサーチリーダーとして着任されました。次いでシニアリサーチフェローにご就任されたあと、FIFCリサーチフェローとして、逝去されるほぼ3週間前まで、活発な研究活動を展開してこられました。

諸熊先生は、福井謙一先生の学生としてヒュッケル分子軌道法や半経験的分子軌道法の時代から量子化学の研究を開始され、爾後、膨大な研究成果を挙げつつ、後進の指導に多大なご尽力をなさいました。非経験的量子化学理論の登場の黎明期から世界的に指導的な立場に立たれ、「理論なくして化学の発展はあり得ない」という現在の時代を形成された最大の貢献者のお一人でした。その絶大なる学術的業績に対し、幾多の賞を受賞されています。主なものとして、

International Academy of Quantum Molecular Science Medal(1978年)
日本化学会賞(1992年)
Schrödinger Medal, World Association of Theoretical Organic Chemists(1993年)
Fukui Medal, Asian Pacific Association of Theoretical and Computational Chemists (2005)
恩賜賞、日本学士院賞 (2008年)
瑞宝中綬章 (2010年)
文化功労者 (2012年)

などがあります。

 ご自身による直接的な学術的功績と並んで、先生がお受けになった最大の栄誉は、生涯現役を貫かれた研究者人生と、分子科学研究所の初代の理論研究系教授として我が国の量子化学界の大発展を指導なさったこと、アメリカ合衆国ロチェスター大学、エモリ―大学の教授として極めて多数の研究者を養成され、多数の後継者に敬愛され続けたことと私共は考えています。また、先生の周りには、多くの実験研究者が常に集い、共同研究を通して、研究成果のみならずあまたの人材の育成にも貢献されました。こうした実践を通して、理論化学が、実験研究と伍してあるいはリードして、化学の発展に寄与することできる時代を作り上げられました。
先生の研究への情熱は終生已むことがなく、一昨年(2016年)4月、学会で参加された九州の地で心臓発作のために緊急手術を受けられた後、京都大学病院などで予後の手術、リハビリテーションなどを受けながら、不撓不屈の精神で研究再開に挑戦されてきました。私共、福井センターの研究者一同は、諸熊奎治先生の学術に対する強いご意志を受け継ぎつつ、福井謙一記念研究センターの基本理念である「基礎化学と応用化学および関連する諸分野の科学の融合、次世代の化学理論の構築」を追究し、独創的な研究を展開していく所存です。諸熊先生ご存命中と同様、引き続き福井謙一記念研究センターのご支援を賜りますようお願い申し上げます。

福井謙一記念研究センター長

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